プロジェクトストーリー

金属加工の世界で「熱」はきわめて厄介な存在です。
鉄やアルミをはじめあらゆる金属は熱によって膨張(熱変位)しますが、工作機械も例外ではありません。工場の室温、回転する主軸、モーターの発熱など様々な要因が機械を不規則に膨張させ、これがミクロン単位の「超精密加工」に影響を及ぼします。
工作機械メーカーは、熱変位を抑えるため熱の発生源に冷却装置を取り付け、加工現場では「補正」という面倒な作業を強いられてきました。ところが2002年、オークマはこれまでの熱変位対策を一変させた、全く新しい概念と制御技術を発表しました。

それが「サーモフレンドリーコンセプト」です。
熱を無理に抑え込もうとするのではなく、制御できる範囲内で熱を発生させる機械構造とし、これをコントロールする。いわば逆転の発想によって画期的な性能をもたらしたのです。
この技術開発で中心的な役割を果たしたのが、研究開発部の千田治光でした。

主軸の熱変位対策に苦労する部員を見て決意

私が入社して最初に担当したのは、球状精度で0.1ミクロン、面粗度で0.01ミクロンを要求される超精密加工機と加工技術の開発でした。社内でも知る人ぞ知る特殊加工機で、正直言って「いつか自分の仕事が製品カタログに掲載されるような開発もやってみたい」という密かな夢もありました。
そして、1995年、同じ部署の開発チームが主軸の熱変位を抑える技術開発で非常に苦労しているのを間近に見ていて「この熱変位という曲者を何とかできないものか」と思いました。当時のオークマの技術規定では「主軸が2万5000回転した時の発熱による伸びの許容範囲は、X軸は10ミクロン、Y軸は20ミクロン、Z軸は30ミクロン以下」という厳しいもので、これをクリアしなければ採用されませんでした。それで「私に主軸の熱変位補正の開発をやらせてください」と手を挙げたわけです。

お客様の言葉で目標となった「10ミクロンの壁」

技術開発の第一段階は「熱解析」です。環境試験室に多種多様な機械を入れてデータを採りますが、工作機械には種々の熱源があり、それらが複雑に絡み合って熱変位がおこります。この現象を一つ一つ調べて解明していくわけです。
解析を続けていた1997年、先行発売した「主軸の熱変位補償システム」を搭載したマシニングセンタを購入されたお客様を調査訪問した時のことです。お客様は「10ミクロン以下の加工精度が出せれば、後工程が本当に楽になるんだが…」と言われました。
長時間の金型加工では、主軸の熱変位よりも「室内の温度変化」でおこる機械の姿勢変化が問題でした。当時のマシニングセンタは、室温の変化により30ミクロンは変化するので、10ミクロン以下の加工精度はとてつもない数字です。しかも、熱変位は室内の温度変化や機械の稼働状況によって四六時中おこっているもので、特に冬、暖房を入れるとアッという間に室温は急上昇します。こうした使用環境の中での10ミクロン以下は極めて高いハードルでした。

「熱変位を受け入れる」という逆転の発想

光明が見えたのは、ある発想転換があったからです。それは日々、環境試験室で熱解析を繰り返すうちに、「主軸のように発熱するものや室温変化を、必要以上に冷やしたり断熱しても仕方がない。それではコストアップとなり、多くの人に使ってもらえない。制御技術と融合させて高精度な加工ができればいいじゃないか」という思いが強くなったのです。この「必要以上に抑えても仕方がない」という考えを発展させると、「熱変位を受け入れる、仲良くする」という方向になります。これが『サーモフレンドリーコンセプト』の発想です。
そこで「熱変位を制御できる構造とはどういうものか?」という課題が浮かび上がりました。オークマが過去に製造した膨大な機械の熱変位に関するデータを洗い出すと、立形マシニングセンタ「VH-40」、CNC旋盤「LB300」の数値がずば抜けて良いものでした。特に箱形ベッドに主軸台や刃物台の主要ユニットを配置した「ボックススラントベッド」構造を採用した「LB300」の経時加工寸法変化が極めて安定していたので、1年がかりで徹底的に調べました。この過程で見えてきたのが『(1)曲がりのない素直な熱変位を発生させるシンプルな構造、(2)熱源の配置や温度バランスへの配慮、(3)主軸の発生熱をリアルタイムで補正する制御システム』です。こうして導き出した原理や解析データを開発中の立形マシニングセンタ「MB-V」のプロジェクトチームに提供しました。
幸運だったのは、開発チームは提示した案を全面的に受け入れてくれたことです。「過剰な装備になるので、それは採用できない」と突っぱねられるケースも珍しくないのに、アイデアを忠実に具現化してくれました。

クレーム無しで年を越して手応えを実感

「MB‐V」については、環境試験室で特に細かく条件を変えてテストをしましたが、初期段階ですでに「経時加工寸法変化17ミクロン」と、通常のマシニングセンタの熱変位に比べて半分になっていました。「これなら細かい改良と熱変位補償システムで、10ミクロン以下を達成できるぞ」と、開発チームと連携・協力してアイデアを出し合いながら、創り込んでいきました。 「MB‐V」は、その当時お客様から高い評価をいただいていた「MX-V」をベースに改良点を徹底的に洗い出したので、機械としてのポテンシャルが高いんです。それを最大限に引き出せる「熱変位補償システム」をつくりたい。そのため「あれもしたい、これもやりたい」と次々にアイデアが出て、異例なことですが、熱変位補償システムのコンセプトからアルゴリズム(論理構造)まで自分たちで設計しました。そして、制御を担当するFAシステム部門を巻きこみ、より高精度な0.1ミクロン版へ短期間でシステムをバージョンアップさせ、「経時加工寸法変化8ミクロン以下」の精度を達成したのです。
2002年11月の日本機械学会の学術発表会で「サーモフレンドリーコンセプト」の技術発表をした時は、「これは目からウロコが落ちるような発想だ。理にかなっている」という感想をいただき、手応えを感じていました。しかし、お客様の中には厳しい環境で使用される場合があるので、「MB-V」が量産体制に入った時期には「クレーム無しで冬を越せるかな」という一抹の不安がありました。結果的に1件のクレームもなく、無事に春を迎えてホッとしたものです。

サーモフレンドリーコンセプトがオークマの代名詞に

おかげさまで「サーモフレンドリーコンセプト」の中核技術の一つである熱変位補償システムが2002年度の「日本機械学会賞」を受賞し、初めて「サーモフレンドリーコンセプト」を適用した立形マシニングセンタ「MB-V」にもお客様から高い評価をいただきました。そして喜びに浸る間もなく、他のマシニングセンタ、CNC旋盤、複合加工機、門形マシニングセンタへと次々に横展開を図っていきました。そして現在、「サーモフレンドリーコンセプト」は、多くの機種に搭載され、"熱安定性に優れたオークマ"という評価をいただくまでになりました。 何よりうれしかったのは、お客様から寄せられる喜びの声です。「面倒な補正作業が不要になった」「空調や季節に左右されず加工精度を追求できる」「他のメーカーも同じような技術を宣伝しているが、オークマの熱変位制御はひと桁ちがう」・・・。こうした感想をいただけるのは、開発者冥利に尽きますが、これからも第二・第三の花を咲かせようと、新たなテーマに取り組んでいるところです。

■メッセージ

就職活動にあたり学生のみなさんには、まず自分をしっかり見つめて欲しいと思います。でも、難しいことを考える必要はありません。あなたは、何をしているときが楽しいですか?どんなことが面白いですか? 就職はゴールではありません。これから更に自分で成長できるチャンスを得る機会でもあります。ですから、今しか出来ない特権を無駄にせず、多くの会社に出向いて自らの目でしっかり見て、感じてください。同じ会社を納得がいくまで何回訪問しても良いと思いますよ。そんな中で、これから長い時間を過ごし、一緒に成長していきたいと感じる会社がきっとあると思います。